五葉山

11月27日(日)奥本(ソロ)

土曜の昼前。久しぶりに寝かぶってしまった。心も体もなんだか疲弊している気がする。疲れた時は眠るに限るな、とドリップで入れたコーヒーを飲んでいてふと「山」の一字が頭をよぎる。筋肉痛になるような登山でなく、癒される山ならいいな…


翌朝4時に起き、車を走らせる。国道に出てまっすぐ東へ。この先は陸前高田だ。高田の松原が懐かしいが、2011年の大地震による津波で松並木は消えた。陸前高田の町に入る直前で左折し山方向に進路を変える。緩やかな気仙川を横目に見ながら、津波が来たらどんな恐怖なのだろうと想像してしまう。住田町から山道をどんどん上がっていく。人気はなく、風が強くなってきて寂しさが増す。

8時前に登山口駐車場に着いた。風はさらに強い。車は7台、何人か先着がいて、着替えたり準備している。身支度を整えて今から登らんとする二人組はウインドブレーカーのフードをかぶって本当に寒そうだ。山から吹き下ろす風が轟轟と唸っている。恐ろしい音だ。以前、西上州立岩を登った時に感じた悪魔の姿が想起される(西上州立岩 : 羚羊山岳会 山行記録 (livedoor.blog))。

登山口からゆっくり歩きだす。今日のテーマは「ゆっくり登ること」「翌日に疲れを残さないように」行くのだ。そう、今日はハイキング。風が強いが晴れた空は美しい。冬はつとめて、この肌を刺すような寒さがいいのだ。ゆっくり、景色を楽しみながら一歩一歩霜を踏む。道は整備されている。石がゴロゴロしているので転ばないように。緩い坂道が続く。葉の落ちた枝の奥に青い空が見える。写真を取る。セミプロのカメラマンに言わせると、山の写真で空はあまり広く撮らないほうが良いらしいが、この青空をこそ残しておきたいと思う。

9合目の石楠花荘の壁にかかった温度計はマイナス3℃を指している。石楠花荘の周りはテント場のようだが今の時期は誰もいない。休むことなく上を目指す。稜線に出てすぐに山頂につく。眼下に低い山並と雲海が広がる。反対側には遠く広田湾が見える。なんとも開放的だ。

誰もいない山頂から日の出岩を往復し黒岩へ。風は強く、時折体をぐらつかせられるが、標高1300m前後の尾根歩きは楽しい。まさに天空のハイキングだ。黒岩へ向かう稜線から見る海は光っている。あの光る海に吸い込まれそうな幻覚を見る。まるで「幻の光」だなと宮本輝の作品の舞台を思い出す。一人の世界に没入していく。誰もいない、ここには自分しかいない。風の谷のナウシカに出てくるような金色の草原。スーッと気持ちが軽くなっていく。

名残惜しかったが下山する。煙突から出る煙に誘われて石楠花荘に入った。階段を上ると、暖炉に火がくべられ、10数人が思い思いに食事を取っていた。不思議だった。ここまで誰にも会わなかったのに、ここにはこんなに沢山の人がいる。いつもなら気軽に声をかけるのだが、なんだか一人でいたくて、簡単に食事して石楠花荘をあとにした。

ここはよい山だ。暖かくなってから仲間を連れて歩きたいと思った。

姫神山(一本杉登山口から城内、コワ坂コース周遊)

岩手山と早池峰山、そして姫神山をめぐる三角関係の伝承は、地域によって少しずつ異なるようだが、岩手山と姫神山の仲が悪く、よって同じ年に岩手山と姫神山に登ると災厄が降りかかる、というのが共通しているようだ。

そんな話を姫神山の山頂で聞いた。その人は福島県の相馬市から前夜きて車中泊していたという50歳くらいの男性。私よりほんの少し早く登り始め、途中一緒に話をしながら登っていたものの、山頂直下の岩場付近から少し置いていかれ先着していたのだ。そしてもう一人、山頂で岩手山を見ていた女性。このひとも登山口から相前後して登り始め、我々より少し遅れて登頂した、北上から来たというおねえさま(私より少し年齢が上かと)。

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お互い、どこから来たとか、どんな山に登ったとか、岩手山に向かって左側が秋田駒ヶ岳ではないか、鳥海山はあっちか、などと話が弾み、そして最後にくだんの話になったのだ。「男山である岩手山と女山である姫神山は、もともとは夫婦だったんだけど、岩手山が早池峰山に浮気をして姫神山と離縁したということ。女山の嫉妬の為、その年のうちに三つとも登ると不幸が訪れるらしいですよ」というのだ。「!」「!?」私ともう一人の女性が、ほぼ同時に「三つとも登っちゃった…」とつぶやく。私は10月に岩手山、早池峰山に登っていたので、最も嫉妬深い姫神山に登って災厄がついてくるのではないかと冷や汗が出てくる。しばし歓談した後、私は城内コースを走るように下って行った。

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一本杉登山口に着いたのが6時45分頃。広い駐車場に7台程度しか駐車していない。寂しい。7時過ぎに登山口で登山届を出し登り始めた。私の前後に2人の登山者がいたが、この2人がなかなかの健脚。この2人に煽られるような形で足早に登山口から登り始める。早々にふくらはぎが張ってくる。今日はなんだか足が重い。ふくらはぎが攣りそうだ。一本杉を越えて尾根筋の分岐点に着くころには全身が疲れていた。ソフトシェルを脱いだり着たりして休憩を入れつつ、7合目くらいで休憩していた先行者に追いつき話が盛り上がり、一緒に登ることにした。山頂までもう1~2合目くらいかというところで先行者が叫ぶ、いや感嘆の声を上げる。何事ぞ!と急いで追いつくと、そこに広がっていたのは岩手山をのぞむ広大なる平野の景色。きれいで思わず私も声を出す。岩手山がかっこよく、雲海の合間に覗く麓の紅葉もきれいだ。

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少し上ると大きな岩がゴロゴロしている。岩は早朝の霧のせいで濡れ、道は狭く、若干傾斜していることもあり、慎重に三点支持を意識して歩を進める。慎重に登ったせいか時間が長く感じた。

山頂は360度の視界、岩手山とそのふもとの景色はやっぱり壮麗だ。他の方角は靄がかかり視界不明。

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先ほどの3人で少し談笑して私は城内コースを下った。やはりここも山頂直下は危なかったが、岩場はほんの少しであとは広く歩きやすい登山道に変わる。駆け降りるように下りながら、「登りは案外きつそうだな」と考えていた。

城内コースを登り返して10時40分に2度目の山頂到着。今度は靄が晴れて360度視界良好。ここはよい山頂だ。100名山に引けを取らない素晴らしい山頂だと思う。

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この日は一本杉登山口から登り、場内登山口コースを往復し、余裕があれば田代コースを往復してコワ坂コースから下山しようと思っていたのだが、城内コースの登り返しがなかなかしんどく、若干しゃりばて気味だったこと、1回目の登頂で聞いた三つの山の伝承も気になって、無理はしないことにした。田代コースは断念してコワ坂コースを下る。

しかしここも癖の強いコースだ。岩も大きく段差もあるが黒土がとても滑る。濡れているせいもあるし大きな落ち葉が更に足元を不安定にする。そういうこともあってかロープが敷設されている。転ばないようトレッキングポールも取り出すが、段差が大きく使いにくい。そこを越えてしばらく行くと見晴らしの良い尾根筋にたどり着いた。岩手山が良く見える。撮影スポットを探して足早になったその時、足が何かに引っかかる。「ええい、くそ!」と足を引っこ抜こう、として足がもつれ顔から草むらに突っ伏してしまった。足に引っかかっていたのは自分のトレッキングポールだった。こんなところで引っかかるとは想定もできなかった。「若いころはこれくらいなんちゃーなかったのにくさ(北九州/筑豊弁)」これが姫神山のお怒りだとしたら、山頂でお会いした女性はもっと大変な目にあってはいないだろうかと心配になった。

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コワ坂登山口には11時40分頃着き、駐車場に向かうも、案の定、舗装路を歩いていると股関節が痛くなり、トボトボとゆっくり下っていった。ユートランド姫神で温泉に浸かり帰りの途に就いた。(記;新奥本の細脚)

岩手 奥州の山岳会です 春夏秋冬山登りを楽しんでいます